仙台地裁は2013(平成25)年3月29日に、小山広域保健衛生組合(管理者・大久保寿夫栃木県小山市長。組合は同市のほか3市町で構成)が排出した焼却灰の発酵処理中間処理後物にかかわる適正処理・処分を、組合側の費用負担による弊社の代替執行を認める決定をしました。
株式会社県南衛生工業(代表取締役・葉坂 勝。宮城県村田町)は、2013(平成25)年4月5日午前、仙台地裁内の司法記者クラブで記者会見を行いました。
記者会見の要旨
【代理人・ 荒井 裕樹 弁護士】- 本件コンポストの引き取り義務があるか否かについては 2012(平成 24)年 3 月に既に最高裁の決定が下っており、今回はその判決を如何に執行するかという執行事件である。
- その執行事件において仙台地裁が 3 月 29 日に株式会社県南衛生工業(以下、県南)が小山広域保健衛生組合(以下、組合)に代わってこのコンポスト 64000m3を搬出し、その費用を予め 47 億円支払うことを命じる決定を下した。
- 本件の経緯について説明(省略)。
- 組合側は最高裁に至るまで一貫して負け続けているにもかかわらず、この執行について積極的に進めず、様々な理屈を出してきて一年半以上の時間を費やした。
- 1992(平成 4)年から現在まで 21 年間という極めて長い期間、この重金属を含んだ 10tトラックで約 1 万台分のコンポストが県南に保管されており、今後、再びそのような震災が起きた時には非常に危険であり、地域の環境、地域住民の生活環境に多大な悪影響を及ぼしかねない。
- 東日本大震災の後、廃棄物の処理処分の費用が上昇してきている。今回の 47 億円は総額ではなく、組合があらかじめ払うべき費用であって、コンポスを処理・処分する過程で、それより多くの金額がかかれば、それは組合側の負担になることから、潜在的には 47 億以上の大きな費用がかかる。従って一刻も早い処理処分が望まれる。
- 我々としては早期に本件を解決するべく仙台地裁の裁判長の訴訟指揮に従って和解を協議してきたが、それを組合側が頑なに拒否してきた。
- 組合側は抗告などせず、早期に適正な処理処分に協力し、本件を一刻も早く解決する、それこそが組合側が主張する排出者責任を果たす最も良い方法である。
- 本訴の中で組合側は、この廃棄物は県南に処理を委託したことから組合側の排出者責任は既に果たしており、これ以上の責任はないということを 7 年間言い続けてきた。ところが執行事件に至るや組合側に排出者責任があるから、我々が処理・処分をすべきであり、県南に処理・処分をさせることはできないと 180 度、態度を豹変させた。こうした極めて不誠実な態度をとってきたことに非常に強い憤りを感じており、組合側の遵法意識を強く疑わざるをえない。
【代表取締役・ 葉坂 勝】
- 私達はきちんと契約し、「廃棄物および清掃に関する法律」(廃掃法)に基づいて一生懸命、仕事をしてきたが、組合側の焼却灰から重金属などが検出されたため、組合側に再三改善するよう申し入れており、組合側から改善する旨を記載した詫び状が 2 回送られてきた。しかし、改善されず、さらに持ち帰らなかったため裁判まで発展した。
- 本訴の中で組合側は我々には責任がないと主張してきた。
- 地元の住民や行政など皆さまに迷惑をかけ続けてきているので私としては一日も早くこれを解決して皆さんに安心して頂くことを願っている。
- 地裁、高裁と、組合側は持ち帰りなさいとの判決を受けながら、それでも組合側は最高裁まで上告した。このことから、私は、組合側は全く搬出する気がないと判断して、一日も早く解決したいという思いで仙台高裁での「仮執行することができる」という判決に基づいて、代替執行することを申し立て、それを今回、仙台地裁から認めていただいた。
- 本訴から執行事件に移った段階で組合側は「責任は私達にある」と言い続けた。しかし、今回の決定文にも記載されている通り、その言葉は裏付けのない言葉でしかなく、「私達がやります」という主張も全く信頼性がない。また、執行事件の審尋においても組合側には反省の姿勢が全く見られなかった。
- そのような組合側の不誠実な対応の中でも、私達は一日も早く解決したいため、和解しようと試みたが、組合側は頑なに拒み続け、今回、決定が下ったにもかかわらず、また抗告すると聞いており、国民を、我々民間人を、行政としてどのように考えているのか疑問である。
- 我々民間人や社会全体で一生懸命、環境問題に取り組んでいるのに行政は環境改善問題を謳っている割合には、それを実行する力になってもらえない。
- そのような中で、私としては本当にどうしたら良いのか分からないので、皆さま(報道関係者)のお力をお借りしてなんとか良い社会に戻れるようになればと願って、皆さまにお集まり頂いた。
- 頼るべく行政がめちゃくちゃでは、我々は何を頼りに生きていけばよいのか分からない。報道関係の皆さまから行政を正していただければと願っています。
- 本当に私の気持ちは 1 日も早くなんとか解決したい、その一点の思いです。
質疑応答抜粋
Q:今回の審尋の中で県南衛生工業側が提示した前払い金額よりは決定は低い額になっているが、その点についての見解は。
A(荒井弁護士): 我々が要求した約 63 億という金額は処理・処分をすべて行った場合の金額だ。今回の決定は確実にかかりそうなところを保守的に見積もって判断を示されたと理解している。
Q:これまでに本件コンポストに起因した環境への悪影響は起きているのか。
A(葉坂社長):宮城県からの改善命令に従って対策を万全にやってきているので、現段階では環境への悪影響は一切ない。しかし、風評被害は大きい。
A(仮野顧問):上空写真(Google Map)を見えていただければわかるように管理は十分やっている。問題は今後、例えば大規模な地震があった場合に、これが崩れて結果として重金属を含む汚泥が田んぼや畑に流れ出る恐れが、可能性としては考えられる。それを防ぐためにも余計早期に適正に撤去して適正な管理場所に移した方が良いというのが葉坂社長の考えでもある。それに対して組合側は裁判を永遠と続けようとしている。これからまた何年かかるかわからないが、また抗告しようとしている。結果的にここで損をするのは誰かと考えると、県南衛生工業はもちろんだが、裁判費用がかる組合側の関係市4市の市民たちも余計な税金を使うことになり、損をすることになる。宮城県もこの汚泥物がそのままここに残されていることになる。いずれにしても早期に撤去するのが一番大事だと思う。そのためにも組合側は抗告という安易な道を選ぶべきではないと思う。4 月 4 日、小山広域保健衛生組合は 47 億円を積み立てるという補正日性予算案を決定したと聞いている。これは明らかに場合によっては負けるかもしれないという思いを持ちながら抗告しようとしているものであり、これは時間稼ぎにしか見えない。結果としていったい誰が得をするのか、誰も得をしない。葉坂社長としては、それが言いたいことだと思う。
A(荒井弁護士):その 47 億の補正予算措置には私もすごく驚いた。仙台地裁の決定日が29 日で彼らの手元に届いたのはおそらく 4 月 1 日だとすると数日間で補正予算措置をしたことになる。これまで組合側が和解協議の上で「仮にここで和解できるとしても予算措置に数カ月かかる」と主張していた。実際は 3 日でできた。いかに組合側が嘘をついてきたか、裁判官を欺こうとしてきたかが明らかであり、極めて許しがたい不誠実な態度であると思っている。
A(葉坂社長):一審、二審、最高裁に引き続き、今回の決定に至る過程や内容を組合側は、小山市民や同市議会に「係争中だから」という理由で教えておらず、それである日突然 47億円の補正予算案を可決しましたという。行政はいったいどうなっているのか。
Q:組合側の主張は、審尋が始まった当初の段階では任意履行に向けて協議が進んでいた。しかし、途中で県南衛生工業が代替執行する方針を示したと言っているが、貴社が代替執行にこだわる理由は何か。
A(荒井弁護士):そもそもこちらが申し立てたのは代替執行なので、本事件の審議は任意履行について審議すべき内容ではなかった。ところが当時は高裁判決がまだ確定していない状況だったので、確定前に撤去を始めるのであれば組合側が任意にやることも一部考えても良いのではないかと考えた。しかし、結局、組合側は屁理屈をこねて、遅々として進まない状況だったので、本来あるべき代替執行にしたということだ。
A(葉坂社長):組合側のやる気がない態度から「これではいつ終わるかわからない」と思い、仙台高裁から仮執行付きの判決を得て、それに藁をもつかむ思いで申請し、今回、認めてもらった。
A(荒井弁護士):実情は7年間、非常に膨大な量のものが県南の事業場の敷地内にある。7年間、自分たち(組合側)に責任ないといって一切引き取らないと言ってきて、ある日突然、責任があるから土地の中に入って、いろいろ重機を動かして、水道、光熱、全部使って事務所も設置すると、それはこちら側にとっては冗談じゃないという話である。実際に執行する際も、こちら側の協力がなければできない。重機を置いておく保管場所とか電源確保をしたりとか、安全確保とか、本来的にこちらがやるのが最も費用も少なくてスムーズに執行できるという実務上の理由もある。
Q:コンポストを保管してきたことで東日本大震災時に何か不都合があったか。
A(葉坂社長):2 年前の地震で、私はコンポストが崩れて周辺に流れ出たかと思い、一瞬頭が真っ白になった。
Q:組合側は抗告する方針を固めている。これに対して御社としての方針は。
A(荒井弁護士):抗告が提出されれば、その抗告をただちに取り下げるように我々としては主張していくつもりである。4 日の記者会見によれば、組合側は 2 点ほど主張している。
一つ目は、最高裁判決はあくまでもコンポストを搬出しなさいという判決であり、搬出するだけだったら運搬賃だけ支払えば済むと組合側は主張してきた。しかし、決定は運搬するだけではなく、無害化するための処理費・処分費も含めて負担しなさいと命じているが、それは不当ではないかというのが一点目だ。
二つ目は、コンポストは一般廃棄物を含むものであり、廃掃法上、市町村が行うべき事柄なので県南衛生工業にはやらせることができないというものだ。我々からすると、それはそもそも論点ではなく、屁理屈にもなっていない、本当にとんでもない主張であると考えている。
まず一点目の「搬出せよ」に関しては、コンポストは重金属を含んでいることから、持ち出すためには無害化しないと持っていく場所がない。即ち組合側は最高裁判決を執行できないと一所懸命主張しているわけだ。ところが一般の裁判では例えば土地の上に建物が立っていて、その土地と建物の所有者が違い、土地の所有者がこの建物を収去して、土地を明け渡しなさいという裁判に勝った時、どのように裁判所が執行しているかというと、執行部がそこに行って業者を雇って家を壊し、それを運び出す、その全部一連の費用を負けた側が負担している。
そういう意味では壊す費用とか、家を壊したらアスベストが入っているから、それを処理、処分してきちんと持っていかなければいけない費用とか全部払うのが当然であり、従って今回も持っていく場所がないので持って行けるように処理するのが当たり前である。ところが組合側は「搬出せよ」としか判決には書いておらず、処理・処分しろとは書いてない、だから我々はそんな費用を負担する必要はないという重箱の隅にすらなっていないことを言っている。そんなことをいうと、あらゆる判決が執行でできなくなる。
例えば、裁判の判決に「建物を収去して明け渡しなさい」としか書いてないとすると、家を壊して良いとは書いていないと主張して、それでいちいち執行できなかったら、もう司法が成り立たないわけである。全く論点ですらないことを一生懸命一年半やっているというのが一1目である。
それから2点目の一般廃棄物は廃掃法上、市町村が行うべきことだから、こちらにはできないという主張だが、市町村というとあたかも小山市は市町村だから組合がやらなければいけないと一見思い込むかもしれないが、コンポストは小山市にあるわけではなく、宮城県村田町にあり、組合側の理屈からすると裁判の当事者ではない村田町が処分に関与しなければいけないということになる。そんなこと言ったら村田町は全く関係ないのに裁判に巻き込まざるを得ないが、日本の法律では村田町を巻き込む方法がないのである。結局、最高裁判決は執行できないということを一生懸命主張していることになる。この主張は法律家からすると論点ですらない、裁判の当事者でない人を連れてこないと実行できないということを一生懸命主張していて、これは本当に裁判を長期化するだけの屁理屈である。
Q:組合側の支払停止の申し入れが認められなかった場合に差し押さえの手続きに入るのか。
A(荒井弁護士):もちろん差し押さえする。
配布した説明資料
1【主な内容】
仙台地裁は2013(平成25)年3月29日に、小山広域保健衛生組合(管理者・大久保寿夫栃木県小山市長。組合は同市のほか下野市、野木町、上三川町の 3 市町で構成)が排出した焼却灰の発酵処理中間処理後物にかかわる適正処理・処分を、組合側の費用負担による弊社の代替執行を認める決定をしました。
特に同中間処理後物を適正処理・処分するための費用として、同地裁は「あらかじめ県南衛生工業に対して47億円を支払え」と命じました。
2【これまでの経過】
①小山広域保健衛生組合が1992(平成4)年に弊社に発酵処理を委託した焼却灰の発酵処理中間処理後物(以下コンポスト)は、現在、宮城県村田町の弊社敷地内に、やむを得ず保管しています。
②しかし、その焼却灰には基準値を超える重金属類が含まれていたため、弊社は、肥料化できなかった分のコンポストを同組合が引き取らなかったのは契約不履行だとして、その撤去と損害賠償を組合側に求めるため、2005(平成17)年6月に仙台地裁に提訴しました。
③同地裁は2009(平成21)年2月に、さらに仙台高裁は2011(平成23)年7月に、それぞれ組合側に全量の引き取りと損害賠償金の支払いを命じました。この高裁判決ではコンポストの撤去を強制執行できる仮執行宣言も付与されました。
④なおこの訴訟につきましては組合側が最高裁に上告しましたが、2012(平成24)年3月に上告棄却となり、仙台高裁判決が確定しました。
⑤この間、弊社は2011(平成23)年8月、コンポストを早急に適正処理・処分を行う必要があると考え、仙台高裁判決に従い、強制執行を組合側の費用でもって弊社が代替することを仙台地裁に申し立てました。この申し立てに対して組合側は、今回の決定文にもあるように、実現の疑わしい撤去計画と見積りなどを提示するともに、様々な理屈をこねて代替執行を頑なに拒否してきました。審尋は14回も行われ、それに1年半が費やされました。しかし、冒頭の【主な内容】の通り、仙台地裁はほぼ全面的に弊社の主張を受け入れ、組合側に対し「組合側の費用負担による弊社の代替執行を認める」との決定を下してくれました。上記②~⑤の通り、弊社はこれまでの訴訟全ておいて勝訴したことになります。
3【弊社の主張と組合側の対応】
①弊社が1992(平成4)年に組合と委託契約をして以降、今日までに21年という極めて長い期間、重金属類を含んだコンポストが適正に処理されないままとなっています。環境保全や地域住民の感情および東日本大震災の影響による人件費と処理・処分費の上昇を考慮した場合、一刻も早く適正に処理・処分すべきだと考えます。
②今回の仙台地裁の決定により、ようやく適正な処理・処分が開始できると弊社は考えておりました。しかし、組合側は4月4日、決定を不服とし、仙台高裁に抗告する方針を決定したと聞いています。
③廃棄物及び清掃に関する法律による排出者責任を果たさず、引取義務の契約違反を犯し、環境保全上、悪影響の恐れのある重金属類を含む廃棄物を21年間も弊社に保管させ、1 審、2 審、最高裁、さらには今回の決定という一連の司法判断に従わず、途中でこちらから提示した和解案をも拒み続けた組合側の判断や行動は「公共の利益のために勤務すべき地方公務員」の行う行為とは思えません。見識や道徳観をも疑わざるをえません。
④小山市議の一部から早急な解決を望む声も出ている昨今、組合側は今回の決定を真摯に受け止め、抗告などによる先延ばしなどはせず、速やかに決定に従うべきだと考えます。なお、弊社がこの記者会見を行った5日、小山広域保健衛生組合は仙台地裁の決定を不服として、仙台高裁に抗告しました。これに対して弊社は4月8日に「原決定主文第2項を取り消し、組合側は、あらかじめ弊社に対し、コンポストを搬出するための費用として、63億7573万0493円を支払え」と仙台高裁に抗告しました。